自分の以前書いたお話を見返してみて気付いたのですが、私のお話には全くと言っていいほど三浦さんと園部さんが出てきません。
以前から度々、私は三浦さんと園部さんがあまり好きじゃないと書いてきましたが、どうやらはっきり「嫌い」なんだと認識を改めました。
いったい何が理由で二人のことがダメになったんだろう?とつらつら考えてみたところ、どうも『パステル気分』の、二人のプレゼントのうさぎのぬいぐるみのせいだということが分かりました。
私自身は基本的に「口は悪いけど、根は良い人」という言葉は信じてません。
優しい人は暖かくて優しい言葉を人に使うものだという考えは10代の頃も今も変わらないものです。
だけど漫画の世界ならそういう人物も存在するかもしれないと二人のことを信じたいと思っていましたが、あのうさぎのぬいぐるみでその考えも消し飛んだことを思い出しました。
なぜ三浦さんと園部さんがプレゼントにうさぎのぬいぐるみを選んだのか?
ぬいぐるみは確かに可愛いいものですが、普通の感覚だと小さい子供にプレゼントするものです。二十歳の女子大生にプレゼントするのはちょっと変な気がします。
私も大学時代に友人にぬいぐるみをプレゼントしたことはありませんし、プレゼントの候補にすら頭に浮かんだことすらありませんでした。
千津美にぬいぐるみを贈ったということに、私は二人が千津美を自分達と対等の存在とは見ていない、自分たちより幼い子供のように、悪くいえば下に見ている心の奥の気持ちが見えてしまったのです。
藤臣くんならば、千津美にぬいぐるみをプレゼントしようなんて絶対に思わないはずです。
まみさん、それはちょっと厳し過ぎるのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、千津美のお姉さんが『春を待つころ』で千津美に送ったプレゼントと比較してみればハッキリ分かると思います。
千津美のお姉さんが贈ったのは、サーモンピンクのセーターに藤臣くんとお揃いの財布
私はこのお姉さんの贈り物とあのうさぎのぬいぐるみを同じに考えることはできません。
お姉さんの誕生日プレゼントには千津美を一人の女の子として大切に思い、藤臣くんとずっと仲良くいられるようにという愛が溢れています。
そして何より、何か落ち込むような出来事があっても千津美はこの贈り物を手にする度に励まされていますね。言葉はなくても千津美はお姉さんの愛をちゃんと受け取っているのです。
でもあのうさぎのぬいぐるみはどうでしょう?
千津美はあのぬいぐるみを見る度に、「私はガキっぽいんだ…」と余計に落ち込んでいます。千津美が二人の友情に感謝して、元気を出す、励まされる小道具になってないのです。
確かに三浦さんと園部さんは私が藤臣くんの彼女にとって変わろうとかは思わないところは、独断と偏見組や菜々子達よりはマシです。でも、千津美を決して対等には見ることはないという点では彼女らと同じです。
mママは以前私に、三浦さんと園部さんののことを「千津美の友達だけど、親友じゃない」と言っていましたが、本当に的を得た表現だと思いました。
数々のひかわ作品には素敵なヒロインの親友役が登場します。
なのに千津美には、どうして良き理解者とは言えないこの二人が配されたのか…ひかわ先生の思惑が今もって分からないのですが、考えるヒントになるキャラが一人います。
『パステル気分』の在坂典子ちゃんです。
典子は最初は千津美にも辛辣で、ガサツでズケズケものを言うことを大人なんだと勘違いしてる痛い女の子ですが、千津美に接するうちに変化していきます。
堀江くんと相思相愛になり、外見も『銀色絵本』では女らしく柔らかな雰囲気に変化しています。
千津美が階段で滑り落ちたのも、彼女が考えごとをしていたからだと察することができる聡明で優しい女性へと成長しています。
これと対照的なのが三浦さんと園部さんです。
長年千津美の側にいながら、人間的成長は描かれることなく、二人の人生に素敵な変化は起こりません。
それぞれ恋の行方も中途半端に終わり、在坂さんに比べて扱いが意外に雑なのです。
つらつら考えていくと、あのうさぎのぬいぐるみは愛らしくありながら、三浦さんと園部さんの偽りの友情を象徴するなかなか切ない物語の小道具ということになります。
リアルタイムで読んだ時は千津美にはどうして味方が、良き理解者が少ないのかと悲しい気分になることがありました。
けれども『ララ』の表紙にもなった、自転車に乗っている千津美が帽子を飛ばされているイラストを見た時、その気持ちが晴れたのを今でもハッキリ覚えています。
はじめてこのイラストを見た時は、今のようにあれこれ深く考えようとはしなかったのですが、
「このイラストの千津美はあのうさぎのぬいぐるみを持ってない」
ということはハッキリと分かりました。
うさぎのぬいぐるみは千津美に相応しい贈り物ではない、だからもう違う誰かのところにある。
今では、うさぎのぬいぐるみはきっと千津美のお姉さんの娘(千津美の姪)のもとにあり、千津美は藤臣くんと一緒に新天地で逞しく、そして幸せに暮らしている。
千津美と藤臣くんシリーズが完結し、それと同時に千津美は「ドジでガキっぽい子」の呪縛から解放されたことを確信しているのです。